語る靴

先日、ある方の社葬に赴きました。葬儀所に着いたときはすでに参列者の入場が始まっていましたが、たまたま前の方の列の中央の席に案内されました。これが芝居やコンサートならラッキー!と喜ぶところでしょうが、告別式では何と言ってよいのやら。
やがてご焼香となり、参列者の列ができ始めたとき、あることに気がつきました。男性はほとんど立派な礼服を着用されているのですが、靴がひどい。国会議員や有名会社のエライ方がたが底が減ったり、何日も磨いたことがないような靴を履いていらっしゃる。礼服が立派なだけに、そのコントラストにいささか驚きました。
顧みてこちらのウレタン底の靴もお世辞にもほめられた代物ではありません。その上、黒系のスーツながらちゃんとした礼服を着て行かなかったのですから、偉そうなことを言う資格がないことは重々承知しておりますが・・・。

料亭の女将やクラブのママなどは、足下で客を判断しているという有名な話があります。靴がその人物を語るというのです。以前仕えたある経営者は社用車の中に新しい革靴を一足用意していて、そのような店に入るときには必ず車中で履き替えていました。つまらないことをしているなあと、その当時は考えていたのですが、それなりに意味のあることだったのかもしれない、と告別式で思い当たったのでした。これも故人のお導きでしょうか。ラッキー! 合掌。〈kimi〉

『部分』

部分=(1)着目する全体の中を分けて考えた一つ。全体の中の一カ所。「この―を直せばよくなる」(2)〔数〕全体の中に含まれているもの。全体それ自身も部分の一つと見る。特に全体それ自身を含まない場合には真部分という。(広辞苑第6版より)

難しい説明ですね。読んでもすんなり頭に入ってきません。数学的と言うべきか論理学的というべきか・・・。しかし「部分」というのは、日常的に極めて頻繁に使う単語です。よく使うどころか、「部分」という単語を使わないと、話ができない人たちさえ存在します。
「それは私どもといたしましては、お話できない部分と申しますか、やっぱりその、申し上げては差し障りがある部分もあるだろうと言うような部分がございまして、経営の方からも控えるようにという指示を受けている部分というのがあるわけなんです」
なんて、わけのわからない言い訳を記者にしている広報部長さんが、ほら、いるでしょう。
一番目の「部分」は、「ところ」と言い換えることができますが、ピントがぼけていることに変りはありません。ずばり「情報」と言ってしまえば明確になるはずなんですが、それではあまりにもストレート過ぎるということで「部分」を使ったのでしょう。
二番目の「部分」は文脈から考えると「可能性」という単語が浮かびます。「差し障りがある」と言いきってしまう勇気はない。「差し障りがある可能性がある」でも「どのような可能性ですか」と突っ込まれそうだ。「部分」を使って、その上にさらに「あるだろう」と二重のソフトフォーカスをかけたというわけです。
三番目は「すべてが差し障りがあるというわけではないんですけど、一部分でも差し障りがあるとまずいので」ということを示唆しているようです。
四番目はとても変な表現です。どんな指示を受けたのかよくわかりません。わからないように「部分」という言葉を意図的に使っている。もしかするすると、上からの指示なんてなかったのかもしれません。
「部分」という表現が実に使い勝手がよく、実にあいまいで、実にうさんくさいことがこれでご理解いただけたでしょうか。少なくとも広報担当者が頻用すべき言葉ではありません。〈kimi〉

甘やかしてはいけません

品質問題は危機管理広報で出番の多いマターの一つです。賞味期限を過ぎた製品を出荷してしまった、異物が混入してしまった、使用中に事故が起こった、医薬品で副作用が発生した、やせるはずなの効果がなかった・・・このような事態が発生したら、直ちに記者発表して謝罪するとともに対応策や再発防止策を表明する必要があります。とくに健康被害の可能性があるときには、社会に対するリスクを最小化するために絶対に講じなければならない措置ですが、健康被害が予想されないケースでも、顧客が求める、あるいは期待する価値が提供できないときは、同様の措置が求められます。それが現代社会における常識というものです。

ところが、お客様の期待する価値が提供できなくても、あるいはあらかじめ表示している品質を提供できなくなっても、社長が謝罪することもなく、具体的な再発防止策を示すでもなく、社員の簡単なお詫びだけですませている業種があります。それは鉄道です。
近頃しばしば遭遇する飛び込みなどによるダイヤの乱れは鉄道会社だけに責任を問うことはできないとしても、雪が降った、雨が降った、混雑した、故障した、すべった転んだと言い訳をしながら、毎日のように遅れを出しているのは一体どういうわけなんでしょう。毎日遅れるなら、そのようなダイヤに問題があるはずです。日本は雨が多く、冬になれば太平洋側でも雪が降ることがある。当たり前のことです。それらを理由に、品質低下(ダイヤ通りに運行できない)を容認する企業など、こと日本においては鉄道会社以外には存在しないのではないでしょうか。
ドアが故障した、信号が故障した、ポイントが切り替わらない・・・品質管理に問題があるんでしょう。どんな改善策をとったのかを鉄道会社が発表することはめったにありません。車内放送で車掌さんが謝罪メッセージを読み上げるだけですましています。
乗客の方も、電車が遅れるのはしかたがない、当たり前と考えているフシがある。甘やかしてはいけません。ここは一つ厳しくやってもらいたい、と昨日のダイヤ乱れで冷や汗をかいた私はそう思うのですが。〈kimi〉