2017年7月10日

(213) 個人責任をもっと重視すべきでは

 新入社員が自殺し、上限を超えた残業で問題になっていた広告最大手・電通の事件の幕引きが近づいています。東京地検が労働基準法違反の疑いで略式起訴したことが7月6日に明らかになりました。大がかりな捜査ぶりで、何度も大きなニュースとして報道されましたが、それで目的を達したかのような流れです。
 略式起訴は公判を省略し、罰金を課すだけの簡略な司法手続きです。ひとことで言えば軽い罪、形式的な罪が対象です。今回の事件では複数の管理職が調べを受け、書類送検されましたが、東京地検は企業のトップや直接の管理職をいずれも不起訴処分にしました。東京簡易裁判所の判断が残っていますが、電通本社員6000人の1年半分の労働時間を調べたという厚生労働省東京労働局の意気込みに対し、司法の冷淡さが浮き彫りです。
 残業の過酷な企業といっても、自殺者が何十人も出ているわけではありません。今回の事件も含め、企業・行政事件の一部は、明らかに特定の管理職・担当者だからこそ起きています。それなのに検察は「法律をよく知らなかった」「違反の自覚はなかった」「まさかそれほど思いつめていたとは思わなかった」「被害は予測できなかった」といった弁明を簡単に認め、「犯意はなかった」と不起訴にします。「こんな奴は死んでしまえ」と意地悪した管理職が、わざわざ自分に不利な供述をしたり、上司の同様発言を証言したりすることも期待できません。
 公判を開かずにすますことができれば、企業の役員や管理職の言動が隠されます。罰金ぐらい平気ですから、何の規制にもなりません。本当に事件を減らすには、そのうえ特異な職員の責任を追及する必要があります。それをしないのは司法や国が本気で取り組む気がないことを表しています。
 労働基準法に限らず、法律の多くは政府や政府に影響力を持つ企業・経営者の利益を損なわないように抜け道だらけです。違法製品を作り、事業をしても責任者はほとんど罰せられることもありません。「法に従い適切に処理」されてお終いです。