2017年11月20日

(231)医療費は低いままでいいのか

 医療費の改定を来春に控え、国の方針や要求、予想などの記事が時々、紙面に登場しています。保険財政からできるだけ額を抑えたい保険者側と医療従事者の待遇改善、中身の充実を望んで増額したい医療者側の意見は真っ向から対立するのは当然です。保険料や自己負担が上がる懸念から患者の多くも抑制派でしょう。でも、医療をすぐ近くの外側から見ていると、医療費は少なければいいとはとても言えません。
 9月と10月のこのコラムで紹介しましたが、医療機関の経営悪化対策として医療者団体は診療報酬の増額を求めています。政府が重視しているはずの働き方改革で是正すべき長時間労働がどの業種よりもひどいのが勤務医です。労働基準監督署が代表的な病院に是正勧告をしていますが、いまの医療費のままで人を増やすのはとても無理です。
 政府、といっても実際は財務省と厚生労働省です。財務省が渋るのは当然ですし、国民健康保険を分担している厚労省は実は保険者側ですから、医療費が増えるのを歓迎するはずがありません。厚労大臣の諮問機関の社会保障審議会委員は厚労省によって選ばれた有識者ですから、大幅な増加を懸念する方向づけはやはり当然に思えます。医療関係で30年も前から高名な辛口の専門家が「私は厚労省関連の審議会委員を頼まれたことはありません」と話していたのを思い出します。
 日本の医師数は病床当たり米国の5分の1、ドイツの3分の 1、看護師数も5分の1 と2分の1、医療費も米国の10分の1、ドイツの4分の1、患者の受診回数は米国の3倍、ドイツの1.5 倍といわれます。短時間診察でも過労、の数字です。11月8日に厚労省が発表した2016年度の調査では、診療所は黒字だったものの赤字の病院が増える傾向が見られました。10月26日発表の介護事業所の調査でも利益率が大きく低下しています。介護施設を経営している病院が多いので、ダブルの厳しさです。
 ただ働きに近い研修医の過労死事件が起きたのが1998年、長時間労働の改善を目的に産婦人科医が訴えた未払い賃金訴訟は2006年でした。たくさんの記事が書かれた割に医療者の労働環境はあまり変わっていない、のが実感です。筆の無力を痛感します。金はかけない、人は増やさない、仕事は減らさないという絶対条件下では、何年経っても大きく改善する余地などないわけです。
 長時間労働は医療の質を下げ、医療ミスにもつながりかねません。本当は患者にとっても見過ごせない問題なのですが。