2018年5月29日

(257)患者によい医療が普及しない

 先週、人工血液透析に関する記者発表および講演会がありました。腎臓機能が落ちた患者の血液を透析装置を通して浄化する普通の透析法のほかに、腹膜透析という方法があります。患者の腹腔を透析液で満たしておくと、血液中の老廃物が液に移ります。これを取り替えて浄化するのが腹膜透析です。普通の透析は週2、3 回、医療機関に出向き、数時間も拘束されますが、腹膜透析はその必要がありません。日中に自分で取り替えるか、夜間、自宅で自動的に浄化してもらう方法があります。
 発表は、バクスター社 (東京) が腹膜透析用の最新装置を日本でも5月から発売したというものでした。患者本人が在宅でセットし、寝ている間に浄化します。高齢者に分かりやすいパネルや音声で、透析液の変更など医師の遠隔操作も可能とのことです。
 医療機関に出向かずに済む腹膜透析は患者にとって大変な朗報です。ところが、日本では年に4万人が透析になりますが、腹膜透析はたった5%。人工透析患者33万人のうちでは3%程度というから驚きます。
 昔の自分の記事を調べてみました。1981年1月、『朝日新聞』夕刊1面に載った記事は「じん臓患者に朗報」「家庭で出来る腹膜透析」の4段見出しでした。東京女子医大などの臨床試験で有効性が確認されたとの内容です。記事にメーカー名はありませんが、バクスター社だったと思います。前2月には専門医の委員会が腹膜透析への保険適用を要望したとの小さな記事も書きました。それから37年も経ちながら、ほとんど普及していなかったわけです。
 日本透析医学会理事長の中元秀友・埼玉医大教授が講演しました。腹膜透析はその一部でしたが、2008年の透析患者調査では、治療前から腹膜透析を知っていた患者は41%、治療開始後に知った患者を合わせても60%で、腎臓移植や普通の透析の認知度を大きく下回りました。また55%の患者は「医師が治療法を決めた」と答えています。一方、医療機関に「腹膜透析の増加に必要なもの」を聞くと、一番多かった回答は「経済的メリット」でした。患者に役立つと私が張り切って紹介しても、なかなか広がらないのが医療界の現実です。医師が本当に患者のことを考えてくれているのか、いささか怪しいというしかありません。